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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)648号 決定

再抗告人

富士電機製造株式会社

右代表者

宍戸福重

右代理人

大江保直

外四名

主文

原決定および東京簡易裁判所が昭和五一年一一月八日同裁判所昭和五一年(ヘ)第一七六五号についてした決定をいずれも取消す。

本件を東京簡易裁判所に差戻す。

理由

一本件再抗告の趣旨及び理由

本件再抗告の趣旨は、原判決を破棄しさらに相当の裁判を求める、というのであり、その理由は別紙のとおりである。

二当裁判所の判断

1  原審において確定した事実は次のとおりである。

(一)  原決定添付目録記載の証書(以下「本件証券」という。)は、熊谷観光株式会社(以下「会社」という。)が再抗告人に対し発行したものであつて、その表面には「証、¥700,000―但し高根カントリー倶楽部正会員資格保証金、上記金額下記条件にて正に借用致しました。(1)返済方法 発行日より五ケ年間無利子据置き其後退会の場合は返済致します。(2)譲渡自由 自由に他人に譲渡することができます。但し、所定の手続が必要です。本証は再発行しませんので大切に御保管下さい。」との記載があるほか、名宛人として再抗告人、発行年月日として昭和三六年三月四日、発行者として東京都中央区銀座三丁目一〇番一九号熊谷観光株式会社取締役社長原田倉治との記載があり、またその裏面には譲渡裏書欄が設けられ、そこには譲渡年月日、譲渡人氏名、同捺印、譲受人氏名、同捺印、承認印の各欄が印刷されている。

(二)  高根カントリー倶楽部(以下「倶楽部」という。)会員規約には、(1)同倶楽部会員には名誉会員、正会員等五種があり、正会員は、個人並びに法人として、所定の様式によつて申込をなし、理事会の承認を得て会員資格保証金の払込を完了した者とする旨(2)会員資格保証金は、所定の様式によつて申込をなし、理事会の承認を得て譲渡することができる。但し、別に会社が定める名義書換手数料を支払うものとする旨(3)会員資格保証金は全額を直接会社が借り入れ、五年間据置き、その後は請求あり次第返済する、会員資格保証金の返還を受けた者は自動的に会員の資格を失う旨(4)会員が倶楽部の諸規則に違反し或いは倶楽部の名誉を毀損したときは理事会の決議により会員たる資格の停止または除名することができる旨の各定めが、また倶楽部規約施行細則には、法人会員の名義変更には理事会の承認を要する、会員は来場の際会員証を提示する旨の定めがある。

2  ところで  民法施行法五七条にいう指図証券は、一般に証券に表章された権利について、証券上指定された者又はその者が証券の記載によつて指定(指図)した者をその権利者とする方式の記載があつて、かつ、その権利の発生、移転または行使にその証券を要するものを指すが、指図文言の記載は必ずしも必要ではなく、権利の移転、行使がその証券をもつて行われる以上これを指図証券と解するのを相当とし、その権利の移転が証券の発行者との関係においてさらに別個の手続を要し、この手続を経なければこの者に対し権利を主張ないし対抗できない場合があつても、そのことだけでは指図証券性を否定できない。

本件についてこれをみる。

(一) 本件証券は、前記規約に従つて発行されたものであるから、保証金返還請求権のみならず、施設利用権をも表章するものと解するのが相当である。

けだし、本件のようないわゆる預託金会員制のゴルフ場にあつては、一般外来者(ビジター)もゴルフ場の施設を利用してゴルフ競技を行うことができるから、倶楽部会員の資格を有する者は、ビジターと比較して低料金でゴルフ施設を優先的継続的に利用できるところに特質があり、このようなゴルフ施設の優先的継続的利用権が会員の有する権利の本体である。また、近時このような預託証券が取引の対象とされ、これに表示された預託金額を超えた価額によつて取引がなされ、市場価格をも形成している実情にかんがみると、本件証券に単に保証金返還請求権のみが表示されているにすぎないとみることはできない。

(二) 本件証券は記載の上からは記名式であるが、譲渡が自由である旨の記載と共に裏書欄が設けられているなど前記のような記載及び方式を備えていること並びにこの種証書が裏書の方法によつて転々譲渡され又は担保に供されている現状にかんがみると、本件証券に表章された前記権利(当該ゴルフ場を優先的に低料金で使用し、一定期間後保証金を返還請求できる権利)は、譲渡人と譲受人との間においては裏書によつて移転し、ただそれを倶楽部または会社に対し主張するのに理事会の承認を要するにすぎないものと解するのが相当であるから、この承認を要する点のみをとらえて本件証券が指図証券性を有しないと断ずるのは相当でない。

なお、理事会の承認は難易があり、また会員たる資格の停止または除名について前記のような規約の定めがあり、これらによつて本件証券の流通性が事実上阻害される場合があるとしても、これらのことの故に本件証券の譲渡性を否定することはできない。

(三) また、本件証券が前記のような記載からみて裏書によつて譲渡されることを予定していること並びに前記のような規約の定めからすれば、会社又は倶楽部に対し、保証金の返還、名義書替、または会員証(当該ゴルフ場使用権の行使のため発行されるもの)の交付を請求するなど権利を主張するためには、本件証券の所持を必要とすることは明らかであり、これを所持しない限り原則として会社又は倶楽部が保証金返還や名義書替等に応じないものとみられるから、本件証券および規約中に権利の行使にあたつて本件証券の所持または呈示を必要とする旨文言がないからといつて、このことから本件証券の指図証券性を否定することはできない。

3 以上の次第で、本件証券は民法施行法五七条の指図証券に当るものと解するのが相当である。そうすると、これに当らないとして抗告を棄却した原決定および本件公示催告の申立てを却下した東京簡易裁判所の却下決定は、いずれも同条の解釈適用を誤つたものというべきであり、これが決定に影響を及ぼすことは明らかであるから、取消を免れないが、本件証券が公示催告の対象となる証券に当る場合には、簡易裁判所がその手続を行うことにかんがみ、本件をその管轄裁判所たる東京簡易裁判所に差戻すのが相当である。よつて、主文のとおり決定する。

(杉本良吉 高木積夫 清野寛甫)

再抗告理由書〈省略〉

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